菅谷公伸博士 アメリカでアルツハイマー病やパーキンソン病に効く今までにない独自の医薬品開発に取り組む


脳外科医になっても、20年間でたったの4,000人しか救えない。でも、脳神経科学者になれば、もっと多くの人を救えると、現在は、セントラル・フロリダ大学バーネット・バイオメディカル・スクールの脳神経科学研究所所長を務める脳神経科学者で教授の菅谷公伸博士。既に、脳内の幹細胞を増殖させて新しい神経を作り出すことで、病気で失われた神経を置き換えるという独自の医薬品開発に動物実験で成功。大学発創薬ベンチャーを興し、この薬を一日でも早く市場に出せるよう、日々邁進してらっしゃいます。セントラル・フロリダ大学医学部バーネット・バイオメディカル・スクールの脳神経科学研究所所長ーにてお話を伺いました。

<セントラル・フロリダ大学医学部バーネット・バイオメディカル・スクールの脳神経科学総合研究センター「菅谷研究室」>


【より多くの人を救いたい】

なぜ脳神経科学の研究を目指されたのでしょうか?

中学の時に理論物理(アインシュタインとか)をやりたかったんですが、色々調べてみるとこういった人達は、18~20歳前には、自分の理論を大体作っていたんですね。なので、自分にはそんな頭はないなぁと諦めて、その当時は、建築が流行っていた時代なので建築をやろうと思ったんです。それで、中学3年生の時から建築家を目指そうと考えていて、コンクールでも金賞を受賞したのですが、良く考えてみたら、一番やりたいのは、加齢、長生きしなければ損だなと思い、それが動機で医学の方向に進みました。今から40年位前になりますが、まだ誰も加齢の研究はしていなかったんです。それで、加齢で何が一番重要かと言ったら、頭が一番重要だと思ったわけです。


その当時、2頭のサルの首をすげ替えて、猿Aの脳を猿Bに、猿Bの脳を猿Aに入れ替えすると言う実験がありました。ここでこの脳が入れ替わった猿Aはいったい猿Aなのでしょうか?それとも猿Bなのでしょうか?この猿は、数時間しか生きていませんでしたが、その間、手足は動かなくても、顔を動かしていました。私が考えるにこの猿は明らかに猿Bです。頭が生きているのが重要であって、心臓は単なる ポンプ、肝臓だって腎臓だっていくらでも取り換え可能な訳ですから、元々体を動かしているのは、脳という事ですよね。精神や理性は全部頭からきているのですから、頭が加齢に一番重要だということで脳神経外科医になろうと考えていました。 

ただ、脳神経外科医になったとしても、どれ位の人を救えるのだろうか?と考えました。1年間に最高で 200件の手術をするのが精一杯でしょう。55歳前後になれば、目はかすみ、手も震えてきて、細かい 血管の手術も困難になってくると考えると、どれくらいの期間にどれだけの人を救えるか?と計算したら、 最高でも20年間でたったの4,000人しか救えないと思い、それなら脳の研究をしたいという事で、現在に至ります。良い研究をして成功すればどれだけの人を救 えるかと言ったら、4,000人よりも、もっともっと多くの人を救える事になりますよね。 


何故アメリカで脳神経科学の研究をされる事になったのでしょうか?

日本で全ての学位を取得後、日本で助手をしないかと言う話があったのですが、その同時期にアメリカから南イリノイ大学のEzio Giacobini薬理学部長が講演のために来日していました。(*Ezio Giacobini博士はアルツハイマー研究の世界的権威)英語は得意ではありませんでしたが、彼の通訳として任命されました。Ezioの通訳として同行している時、突然彼は顔をぐいっと私に近づけ「僕の研究室に来ませんか?」と言ったのです。ただその時一度きりでした。普通なら「社交辞令」だろうと受け流すかもしれませんが、私はこの2週間後、Ezioに電話でそちらに行く旨を伝え、観光ビザでアメリカへ飛びEzioに会いに行きました。「言われた通り、あなたの研究所に来ました。」と。Ezioは大変歓迎してくれ、そこからメキシコへ飛びビザを取得し、再渡米し南イリノイ大学のEzioの研究所で正式に働く事になりました。今から約30年以上前の話です。

ここで、約1年と2~3ヶ月くらい楽しく勤務していた頃でしょうか、アメリカ赴任前に日本で申請していた科研費がおりることになり、受け取るには日本にいないといけないという事で、日本に戻りました。日本では良い待遇をされましたが、どこにでも派閥はあります。そんなところから再び飛び出そうと、再び渡米する決意をしました。しかし、日本からアメリカの大学や研究所へ100通近くの応募をしましたが、英語もまだまだで、アメリカでなんら実績のない若者、特にグラント(科研費)の実績がない研究者等、なかなか採用してくれません。それでも挫けず応募する中、唯一、フロリダ州ジャクソンビルにあるMayo Clinicから採用していただけるとの連絡がありました。これが2度目の渡米となります。しかし、渡米し実際の勤務地である場所へ行ったら、まだ建物が建っていないという状態で、その時なるほどと、採用された事に納得したものです。

5年ほどMayo Clinicに勤務した後、南イリノイ大学で一緒だった医師がイリノイ大学シカゴ校に脳神経外科の研究所を開く事になり、彼は医者なので、私に研究の方を任せたいと言うことで、良い話だと思い移動しました。移動後は順風満帆に研究をすすめることができたと言いたいところですが、元々私を呼び寄せてくれた方が、着任してからまもなく、より条件が良いところが見つかったと他の大学に移動してしまったのです。大学のアシスタントプロフェッサーというタイトルを持ったまま、予算も研究する場所もいきなり失い途方にくれました。そこから近くにあった軍人病院に掛け合い、無料で研究室を借りる事ができ、研究に使用する機器等は自腹で購入し・・・まあ、そこまでは大変でしたが・・・、研究が好きなので苦労と感じず楽しく研究を続けていました。そのうちに脳の再生を幹細胞で行う研究を始め、 世界で初めて人脳の幹細胞を老化ラットに移植し、 神経の再生と記憶の改善に成功させることができました。この研究成果からアメリカ政府からのグラントがスムーズにとれるようになり、得たグラントをもって、現在のセントラル・フロリダ大学医学部バーネット・バイオメディカル・スクールの脳神経科学研究所所長として就任し今に至ります。
*Mayo Clinicは米国病院ランキングのU.S. News Best Hospitals 2015-16で、多くの部門で1位に選ばれている総合病院。


現在研究センター長として就任されているセントラル・フロリダ大学バーネット・バイオメディカル・スクール医学部にこられた理由はなんでしょうか?

ここに来た時は、学生数がまだ30,000人位でしたが、今は70,000人位になっています。研究の上でも、今は凄くランクアップしていて特許の数から言ったら、ハーバード大学を抜いています。私が来たからと言うのもあるでしょうが(笑)、現在ハーバード大学が8位くらいで、ここは6位くらいです。かなり頑張っていますよ。

ここは、元々フロリダテックと言うNASAのために作られたテクノロジーの大学で、しっかりした技術を持っています。その技術を使って何か研究できないかと、実際にPhotonicsのレーザーを使って物を動かすなどの研究も可能です。スタートレックで宇宙船をレーザーで引っ張ったり、止めたりするシーンがあるのですが、それが今実際に可能なのをご存知ですか?これを利用して細胞を動かせるか?なんて研究も簡単だとやってみたのですが、レーザーが強くて、最初は一瞬にして細胞を燃やしてしまったんです。研究を重ね、細胞の中のタンパクだけを弱いレーザーで動かすことに成功し、この特許も取得しました。そんな研究もできるので、ここに来たと言う理由もあります。

<セントラルフロリダ大学医学部バーネット・バイオメディカル・スクール・ライブラリーにて>


研究を進めていく上で何か葛藤はありますか?

運が良いと言うのか、自分でそう思わないのかもしれませんが、特に葛藤はありません。特に大変だったと言う記憶が何もないので、残念ながらそういうお話ができません。自分の好きな事をやって、趣味をやっているようなもので、それで食べていけるのですからとてもラッキーだと思っています。 


【アルツハイマーを治癒する画期的な新薬の開発】 

2016年に大学発創薬ベンチャーを興されましたが、どのような会社ですか? 

脳の中の環境を正常に戻し、幹細胞を増やして神経を作り直す薬を扱うSynapCyteと言う会社です。幹細胞と言ったら、頭に穴を開けて投与しなければならないですが、それは誰もやりたくないですよね。それをしなくても済むと言う飲み薬です。


本来、脳の中に幹細胞があるのですか?それを活性化させるための飲み薬と言う解釈でよろしいですか?

ありますが、脳の中にある幹細胞と言うのは、年を取るとだんだん減ってきます。若い頃は神経をどんどん作っているのですが(Synapの意味は、神経同士が一緒に繋がっているところを言うのですが)脳の中にある幹細胞が神経細胞を作って、それを利用して脳の機能を維持しているんですね。それが年を取ると、だんだん維持出来なくなってきて、脳の機能が悪くなります。その極端な例が、認知症です。私どもの開発した薬品は認知症の中でもアルツハイマー病に特化しているわけではなく、どれにしても効果的ですが、アルツハイマー病は、特別に考慮しなければならないことがあります。人間のアルツハイマー病の遺伝子を動物に入れると、アルツハイマー病の脳の状態を作り出すことができます。それにいくら幹細胞を投入しても効かないんですね。何で効かないのかと調べたところ、アルツハイマー病の中で作られるタンパクが幹細胞に作用してグリアと言う細胞に変えてしまうので、神経を作り出すことが出来なくなっていたからなんです。だから、最初にこの環境を直してあげなければなりません。昔は、グリアは脳の中の単なる詰め物だと思われていて、それくらいに全く何の影響もない物だと考えられていました。実際は、神経のサポートをしているのですが、そればかり作っても全くアルツハイマー病の患者の助けにはなりません。そこでもう1つの薬、アルツハイマー病の脳の中で作られるタンパクに対応するものが必要となる訳です。

この薬の特許をお持ちという事は、有効性が確認されているのでしょうか?

アルツハイマー病の脳の状態を正常な状態に戻し、幹細胞を増殖すると言った2つの特許を持っています。また、この2つの特許を一緒に使う特許も持っていて、有効性は既に動物実験で確認されています。後者の特許は昨年申請しました。

<動物実験で有効性を示すデータについて説明する菅谷教授>


正常に戻ったとしても、また幹細胞の量が低下していくわけではないのでしょうか?

ある程度の期間が経つと低下していきますが、この薬を長期にわたって連続的に服用する必要性はないかも知れません。どうしても、加齢で神経は死んでいきますから、低下してきたら増殖させるために服用することになります。でも、これらの病気で神経は一度に大量に死んでいくのではなくて10年から20年かけて徐々に減っていくので、5~6年に1度の頻度での服用になるでしょう。


アルツハイマー病やパーキンソン病の方々に服用してもらい様子を見ると言うのは不可能なのですか?

直ぐには不可能で、人に投与する前にアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認が必要です。そのために会社を興して、これを人間に使用しても安全ですよと言う事を証明することで、FDAの承認を得ようとしています。証明するには、第1期から4期まである臨床試験が必須となります。人が服用して毒になりませんと言う安全性を証明するのが、第1期。第2期では、効き目、投与量や投与法の確立、そして第3期では、何百人、何千人の患者を対象に最終的な安全性や効き目などを証明しなければなりません。第3期まで終われば、一応薬としての効き目や安全性が認められ、人への使用が許可されます。そして、市場で今度は何万という人間に服用してもらい確認するのが第4期となります。
現在、SynapCyteでは、FDAの承認へ向けて必要な資金調達活動を行っておりますが、大手の製薬会社が多額の資金を投じてアルツハイマーの研究開発を行い、全て失敗している状況ということで、資金調達活動が難航しているのが現況です。

現在多くの患者さんやご家族からSynapCyteの薬について問い合わせを頂きます。先ほどの葛藤はあるか?という質問で、葛藤はないと答えましたが、そういった切実な声を聞くたび、心苦しくなります。1日も早くこの薬を世に出したいと思っています。


市場で競合もあったりするのでしょうか?

私の会社と競合するところはどこもありません。1つカリフォルニアの会社で、似たような話を聞いたことがありますが、彼らが増やせるのはせいぜい10%のみです。私の会社の薬は、600%近く増やせるのですから、競合がいるとは思えません。そんなに増やして、大丈夫なのかと思われるかもしれませんが、正常に制御されている細胞の分裂機能を向上させるだけですから問題ありません。例えば、がん細胞には全く作用しませんし、幹細胞を沢山持った若い動物に投与しても効き目はせいぜい30%位でしょうか。でも、年を取った動物に投与すると、激増します。また、それらの細胞が癌化するという事もありません。


人間で効果が出るかどうかはまだわからないのですよね?

まだ分かりませんが、これだけ動物で効果が出ていますし、今までの薬とは全く異なった方法で働くので、効果が出る可能性は高いです。それに今までの薬は、症状を変える事が出来ただけで本当に治癒していない点からも、この薬は今までの物とは全く別の薬という事になります。



【幹細胞の量を増やしていけば、アルツハイマー病を治すことが出来る】

アルツハイマー病がどうして起こるのかと言う様々な仮説から、どのような研究をされてこられたのでしょうか? 

タウタンパクだったり、アミロイドだったりDAPTなどをみんな信じてやってきたのですが、全部失敗してしまって、大手製薬会社などは、アルツハイマー病の薬は作らないと手を引いてしまいました。アリセプトなどのように臨床の中で多少なりとも効き目があるとされ、現在使われている殆どの薬の元の開発に、32~3年前に私を最初にアメリカに呼んでくれたEzio Giacobini博士と共に携わりました。アルツハイマー病の患者では、アセチルコリンという物質が下がります。そこでその物質を壊す酵素(コリンエステラーゼ)をブロックすれば、アセチルコリンの量が上がって機能が戻るだろうと言う仮説を元に作った、コリンエステラーゼを阻害する薬です。

私たちが一番最初にこの仮説に基づいて何をしたかと言うと、その時には良い薬がなかったので、殺虫剤を頭の中に投入しました。殺虫剤と言うのは、コリンエステラーゼの阻害薬です。殺虫剤を自分にスプレーしても死なないのに、なぜ虫は死ぬかご存知ですか?人間は、そんなにコリンエステラーゼを使っていません。ところが特に飛ぶ昆虫などは、羽をものすごく早く動かしますよね?羽を動かすための筋肉はアセチルコリンで動いています。それをぱっと壊して、また直ぐに羽を動かさなければいけないのでコリンエステラーゼを大量に持っていて、それを阻害する薬には敏感なのです。この治療はある一定の人には効き目がありました。効くと言っても、神経はどんどん死んでいってしまうので、根本的に回復するわけではなく、ある程度は記憶が薄れていくのが遅くなる、抑えられると言うのが最初の薬でした。

次に、私がMayo Clinicに行った時には、頭の中で炎症が起きるから神経が死んでいくのだという事を証明しました。日本の瀬戸内海の長島に国立ハンセン病療養所があり、昔は、らい病などの患者を収容していました。そこに収容されていた患者は、あちこちに起きている色々な炎症を抑える抗炎症薬、例えばアスピリンを与えられていました。その結果、ここの患者からは1人もアルツハイマー病の患者が出なかったという事に注目して、もしかしたら脳の中で炎症が起きているのがアルツハイマー病の原因ではないのかとの仮定での研究をMayo Clinicで始めました。製薬会社に話をし、製薬会社もそれで薬を作ろうという話になりました。アスピリンを毎日飲んでいると胃を壊してしまうので、脳の炎症用に特化したものを何か作れば良いのではないかとやったのですが、製薬会社はお金にならないと言うことで辞めていきました。何故かと言うと、この薬はアルツハイマー病になる前から投与してないと意味がなく、神経が落ちてしまってからでは効き目がないのです。従って予防薬としての価値はありますが、長期の臨床試験が必要なため莫大な開発費用がかかり、製薬会社の目的には合致しませんでした。

幹細胞の研究を始めたのは1996年位だったでしょうか?ちょうどイリノイ大学に移った時で幹細胞の事が論文に出てきた頃です。その頃はまだ人間の頭の中に幹細胞があるという事が分かっていませんでした。胚性幹細胞に関しては、少し分かってきていて、マウスなどを使って胚性幹細胞を実験している段階の時期でした。最初に動物の脳に幹細胞があることが発見されたのは鳥でした。鶯が良い例ですが、鳥は春になると歌を覚えて夏になると歌を忘れます。その研究をしている人が、鳥が歌を覚える時に、頭の中に新しい神経が毎年春になると作られ、夏になると死んでしまう事を発見しました。それで、その神経はどこからきているのかと調べたら、頭の中に幹細胞があると言う事が判りました。その後に動物はみんな、人間を含めて脳内に幹細胞を持っていて、常に脳の細胞を再生していることが判ってきました。本などによると脳の細胞は一度失われると再生することは無いとされていますが、最先端の科学ではそのような常識は常に覆されるものです。

人間の脳の幹細胞は、17歳位まではかなり維持されていますが、そこからどんどん減っていきます。だから、加齢によりボケると言うことが起きてきます。ただ、80-90歳でもかなり脳がしっかりしている人もいます。個人差が出てくる理由として言われているのは、若い時に神経を沢山作っておけば、歳をとり失っていったとしても、かなりの量が残っているという説です。高学歴の人の方がアルツハイマー病になりにくいと言われる所です。勉強だけでなく、音楽家なんかもそうですね。音楽を聴くこと自体もアルツハイマー病の予防になると考えられていますが、特に自分を表現する、指を動かすことによる刺激が良いのでしょう。逆にどのようにすればアルツハイマー病になりやすいのでしょうか。スポーツにもよりますが、例えばラグビー、フットボール、ボクシングなどのスポーツ選手は歳をとってから脳障害を起こしやすいのです。例で言うと、モハメド・アリも完璧にパーキンソン病でしたね。

頭にナイフを刺しても全く痛くありません。痛いのは表面だけです。それは、脳の中には痛みを感じる神経がないからです。ただ、ダメージを受けた神経は周りの細胞に助けを求めようとします。それの中にアルツハイマー病患者に多く見られるのは、アミロイド前駆体タンパクが有ります。アミロイドはアルツハイマー病の患者の脳に多く見られる老人斑の元となる物質で、昔は毒性のあるアミロイドの蓄積によって神経が死んでしまうから、アルツハイマー病になると考えられていました。今でもそう信じている人がいますし、ごく最近まで製薬会社もその方向で薬と開発してきました。

今では、アルツハイマー病はアミロイドの蓄積によって引き起こされるのではなく、その生成を止める薬は全く効果がない事が分かり、どの製薬会社も開発を辞めています。そこで、私は今までとは全く異なる仮説を独自の研究から、アミロイド前駆体タンパクの作用として頭の中の幹細胞をどんどんグリアに変えてしまうから幹細胞の量が低下し、幹細胞が神経を再生できなくなる、それがアルツハイマー病の原因だと言う仮説を立てました。

先に述べたスポーツ選手は頭に打撃を受ける事が多いですからこのアミロイド前駆体タンパクを大量に作ることになってしまいます。また、若年性のアルツハイマー病になる事で知られるダウンシンドロームの患者さんはアミロイド前駆体タンパクの遺伝子の乗っている21番染色体を3本持っていることで、生まれながらに大量にこのタンパクを作ってしまいます。従ってこれらの人では幹細胞が神経を再生できなくなるだけでなく幹細胞の量が低下する事でアルツハイマー病になりやすくなると考えられます。そこで、先の私の仮説に基づいて開発した治療法により脳の環境を幹細胞から神経が作れる環境に変え、その上で幹細胞の量を増やしていけば、これらのアルツハイマー病を治すことが出来るという事になります。

<オーランド駐在のご家族の方々へセントラルフロリダ大学医学部内を案内する菅谷教授>


【人生一度だよ、悔いのある人生を送ってはいけないよ】

今日本の若者は、「夢をもちにくい時代」と言われています。
そんな日本の若者へメッセージをお願いします。

生徒に言っているのは、良い研究者は、子供でなければいけない。
何にでも興味をもって、これはなんでこうなっているんだろう?なんでそうなの?なんで?と子供は質問しますよね。そうでなければいけないと思います。そして、ネガティブなデーターが出ても、それを無視してはいけない。ネガティブな事が出たら、そこが新しい科学の始まり。何でも自分で期待した通りのデーターが出たら、実験は要らないわけですから。
 言い忘れましたけれど、シカゴをやめたのは、それが原因だったからなんです。シカゴの所長が、自分の部下を使って自分に都合の良いデーターを偽造していたんですね。それを発見して、こんな所長を辞めさせない限り、私は出ていくという事になって、学長に言って彼に『お前は変わってるな』と言われたのですけれど、結局その所長をやめさせても、そのデーターを作っていた部下を所長にしたので、何も変わらないじゃないかと思って辞めたんです。
『人生一度だよ、悔いのある人生を送ってはいけないよ』と伝えたいです。 脳神経科学者としては、私は、来生を信じていません。脳科学者としては、脳が死んでしまえばそれでお終いだろうと考えます。でも、神様は信じていますよ。自然が神様です。あと、自分のハートにある神様。これは絶対に必要です。何かあった時に、お願いできる神様って絶対必要ですよね。神様は信じていても、生まれ変わりや来生は信じていませんが、天国と地獄は信じています。私の言う、天国と地獄は、死後に続くものではありません。死んだ時に心臓や血が止まっても、脳は数分動いてます。脳がクラッシュしても神経は数十秒は動いています。その間に、あれをやっておけば良かったなという後悔があったら、それは地獄、もうその時にはどうしようもなく、やり直すわけにはいかないわけですからね。そして、その時に、あー良い人生を送ったな、ラッキーだったな、良いことをやったよなって思えるのであれば、それが天国だと私は考えています。だから行動を起こさずに、後でうじうじ考えているのはどうかと思います。まずはやって見て、あーだめだこれっていう事は良いのではないかなと思いますよ。今を無為にしてはいけない。自分が毎日精一杯に生きて、自分はここまでって言うところまでやっていたら、人生に満足感があるという事になりますよね。 



 <取材後記:吉澤優子(Yuko Yoshizawa)> 

とても好奇心旺盛で、出会った瞬間から何事に対しても前向きな菅谷博士の姿勢が見受けられました。脳の研究をされているからだけではなく、自然に何事に関してもポジティブ思考でいらっしゃる事が伺え、それが心身ともに若さを保たれる秘訣でもあるのだろうなと実感させられました。菅谷様のインタビューを通じで学んだことを同年代の友達や次世代にも是非伝えていけたらと同感させられました。


  菅谷公伸博士 
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の治療法に取り組む脳神経科学者、医学教授、兼セントラル・フロリダ大学バーネット・バイオメディカル・スクールの脳神経科学研究所所長。そして、彼の60以上の特許をもとに設立した医薬品会社の設立者でもあり、そのうちの一社SynapCyte社は、脳内の幹細胞を増殖させて新しい神経を作り出すことで、病気で失われた神経を置き換えると言う独自の医薬品開発に取り組んでいます。 

 

セントラル・フロリダ大学バーネット・バイオメディカル・スクール
https://med.ucf.edu/

SynapCyte社
https://www.synapcyte.com/

株式会社プロジェニサイトジャパン
https://www.progenicytejapan.com/








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